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世界各地に異界との扉が通じて数百年。 人ならざる種族――『魔族』との交流は世界の変容と共に恩恵をもたらす一方で、魔族が絡む凶悪犯罪の増加をもたらした。 犯罪組織に所属する魔族たち、異国より流入する魔族たち、それらと結託する人間たちの暗躍により、 いつしかこの国の首都・東京も犯罪都市としての顔を覗かせるようになる。 世界一安全な国と呼ばれた面影はどこにもない。 しかし、闇に覆われようとするこの国に光を灯すべく、無辜の人々が少しでも多くの平和を享受できるために、水面下で危機を防ぐ者たちがいる。 ――雲ひとつない澄んだ夜空、満月がネオン煌く超高層ビル群を照らす。 そんな都心から少し離れた東京湾上では巨大クルーズ船の中で盛大なパーティが開かれていた。 スーツやドレスに身を包んだ男や女たちが会話に華を咲かせる。 だが普通の社交パーティなどではなく、そこで行われていたのは、 何と若い女の人身売買オークション―― そこでは人知れず、犯罪組織の主催する下卑た宴が開催されていたのだ。 そんな席に参加している、美しいドレスに身を包んだ二人の若い少女がお互いに目を向ける。 刹那、窓が割られる音と同時に煙と閃光が会場内を支配する。 そして、外から、中の扉から侵入してきたのは……一体今までどこに潜んでいたのか。特殊スーツに身を包んだ男や女、そして魔族の戦闘員たち。 彼ら彼女らは、社会に仇成す人魔を掃討する存在―― 政府傘下の特務諜報機関『神槌<カミヅチ>』に所属する、高潔な精神を持った人間と善良魔族が結集した選ばれし者たちだ。 その強襲作戦にはドレスから早着替えし、同じく特殊スーツに身を包んだ御厨美命とエルミア・シュティーベルも含まれており、特に美命は、『魔滅姫』の異名で畏れられていた。 先程までとは打って変わって、会場内は優雅さとは遥かに駆け離れた、血と暴力にまみれた阿鼻叫喚の世界と化す。 闇のパーティに参加していた者の内、その多くは投降の上で無力化、しかし、中にはその姿を本来の姿へと変貌させ抵抗する悪徳魔族や、護衛の傭兵に命令して抵抗する人間もいた。 しかし、数多の犯罪組織と対決し、死線を潜り抜けてきた美命たちたちは憶する事なく立ち向かい、殲滅と拘束を繰り返して制圧していく。 意識をかろうじて保ち、反撃の機会を窺って倒れていた魔族の首を愛剣『カザキリ』でひと突きする美命。 傭兵として雇われたオーク魔族は、口から血と共に醜い濁音を吐いた後、動かなくなった。 戦闘を交える中で、敵魔族が取り出した謎の飴玉を口に咥えて噛み砕いた刹那、突如として、腕力をはじめとする肉体の動きが活性化した。 気を抜いていれば、いくら百戦錬磨の美命たちとはいえ、傷のひとつやふたつは免れなかっただろう。 満月を見つめながら、ふと美命は自身の心に深い傷を遺した、実態不明の巨大犯罪組織の存在が過ぎる。 ――かくして、魔族が絡む犯罪は美命とエルミアたちの活躍により、未然に防がれた。 だが、所詮はひとつの事件が解決されたに過ぎず、美命たちと悪徳人魔との戦いに終わりはない。 ――そして、その戦いは新たな局面を迎えようとしていた。




